センター現代文一問一答必修編

第 23 講 小説

うと父は しかし相変らず 庭に集めた塵芥をど 片付けるのが新所有者へ 支配人が抗議しに来た。恐縮し 呂 ろ 場 ば に行きバケツに水をくんできた時は を押して帰った。 父と二人で火を燃やした。年の暮れになると 降はたえてなかったことだ。彼は るのを不思議に親密な思いで見た。 彼の父は して少しは遊んだらいいのにと嘆かしめ ほどであった。もっ ための 新しい会社ビルをつくるには先進国の立派な建物を見 にしくはなしと 財産の大半を戦後に失った父にしてみれば、 これは思いがけぬ恩典であった 自弁で ベ (注3) ルリン・オリンピックを見に行った時の若い父の顔を 写真をとり、 帰国すると本社ビルの設計施工の総監督となり、 た。めでたく超モダンなビルが完成した時、父は六十歳の定年に達していた。取締役で の特典を期待していた父は、 つまるところ一介のやとわれ重役に過ぎず、 すなわち何一つ特 だろうか、 麻 マージヤン 雀 とゴルフなどは十人並にやった。精勤の 頷 うなず き、 それか 或 あ る生命保険会社に三十五年間勤めあげた。 物 もの 凄 すご い黒煙が巨大な舌のように

竹 たけ 箒 ぼうき で火をたたいたり、塵芥の山を 痩 や せて 皺 しわ の深い、このところ年々小さくなってきた父の姿

几 甲 か 斐 い あってか五十歳をすぎて取締役となり、本社ビル新築の責任者にな き 帳 ちょう 面 めん 一方の勤めぶりで、しかも会社がおわるとまっすぐ帰宅し

髣 ほう 髴 ふつ とさせた。欧米各国の代表的保険会社を訪ね、数百枚のカラー 盆 (注4) 暮には業者から山なす付け届けをもらい、 その威勢はめざましかっ

塵 (注1) 芥の山に火を付けた。何

眼 ま 蓋 ぶた の下でゆらめいてい

満 (注2) 鉄の株にしてあった

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