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とひ侍らむ わが身すでに老

なりては、ゆふべの

ば、けふをかぎりの別

さきだてて、長き旅路をは

にまみえてあれ。われだに、ひ

と思へば、さぞやおぼしてむと涙に

まぜて、 わが子をおもふ如にい けるに

がははの袖もちなでてわがからに泣きし心を

わすらえぬかも」と誦し いよよ親坐す国

の恋しう、いかなる宿世にや、かく人の親の

心の闇におもひたまへらむと、 涙をとどめて、

いかなれば老いの涙のわが袖にかかるな

さけをえやは忘れむ

ない命です

涙を浮かべ、長

あなたの

ご両親に対

面なされよ。私 さ

あなたが

辛い一人旅をなさっ

ろうなあと思うくらいで

あなたのご両親は

、なおのこ

とそうお思いでしょう、と、

子を案じるように言ったので、

私も

「わがははの…=母上が私

の衣の袖をとって撫でさすり、私ゆえ

お気持ちを忘れることは きませんよ」と

た。

旅立ってみると

、なおいっそう両親のいらっしゃる故郷が

恋しく、いったいどんな前世の因縁で、親というも

でも、

ものの区別もつかない闇夜のようにわが子のことを心配

して

くださるのかと、

こみ上げてくる

涙を押さえて、こう詠ん

だ。

いかなれば…=いったい老いた

両親が私のことを心配し

、私の衣の袖に涙を注ぎ けてくださ ようなこんな愛情

を、どうして忘れることができようか、 や、とても忘れる

ことはできない。