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神仏を念じ ませぬるに、か
いとうれし。やうや
づのことども語らふも
かとふけゆく秋の夜、軒
の、戸口さへさながらなるに、
影もいつしか雲隠れて、雨をさそへ
た寒く、うちしめりゆく虫の声々いとあ
なり。
風わたる草のたも にあらそひて露散り
まがふ袖の上かな
明けゆく軒の雨そそきも い わびし 降
りしきるに、立ち出でむ空もなくて籠りを
り。 「人や見つけむ」と思ふもいと恐ろしき
に、雷さへおどろおどろしう鳴れば またも
「いかならむ」と女の心思ひやるに、我さへ
いと苦しくて、胸を押さへつつ、何くれと慰
め暮らす。やうやう雨は晴れぬれど 風はな
取り戻した
女の
心を
落ち着かせなが
いつの間に ふけて
で、戸口までもあらわに
いつの間にか雲に隠れて、 雨
しんみりとした虫 声々がたいそ
風わたる…=風が吹きわたると草
それと先を争うように私(
=
男
)の袖にも涙がたいそう降り
かかるこ よ。
明けてゆく軒に雨が降りかかるのも、たいそうも
絶え間なく降り続ける中、出立できる空模様でもないの
こもっていた。
男は
「人が見つけるかもしれない」と思うのも
たいそう恐ろしい上に、雷までも激しく鳴るので、また 「ど
うだろう(
=
また驚いて気絶したりしないだろうか
) 」と女の
心情を思いやると、自分までもひどく苦しくて、胸を押さえな
がら、あれこれと
女を
慰めて時を過ごす。しだいに雨はあがっ
てきたが 風はなおも激しいのに、 やはり人目もはばかられて、
夕暮れ時に出立した。粗末な車に乗って行くと、女は、前から




