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十九日、

とら

の刻よりおき

でて、正覚寺にゆき

て門

たた

きて入る。父母および

み は か

にこたみ

の不孝を告げ

たいまつ

る。みたまのいかに我を罪

たま

らんとそぞろにそらおそろし。

とぶ ふ。ここも許しあるところに

ばしもたたずみなんは

人わろければ

、慌ただしく

とくまかでぬ

。 とみかうみする間に日暮れぬれば、

またそこに泊まりぬ。

二十日、

とり

の時より起き、旅用意し、

あるじ

に銭ま

た旅の具などかりていとま

ひていでぬ。いく

よろづよ

もここに

きて子なるもの孫なるものの

さか

く末をもみばや

など思ひたりし家居をあとになし

つつ出で立つ。すみすてがたき宿の辺り、かへり

みのみせらるるぞあぢきなき。昔めしつかひし人

の武蔵 国なにがしの里にす ひてあれば、それ

を便りにとてゆ なりけり。鎌倉

を過ぎ、護

十九日、午前四時

て門を叩いて中に入る。

の不孝をご報告申し上げる

先祖の

霊がどんなに私を罰

しなさるだろうかと思うとひどく

院を訪ねる。ここも許されているとこ

しばらくたたずむのもみっともないので、

ぐに退出した。あれこれと見ている間に日が暮

たので、またそこに泊った。

二十日、午後六時ごろから起き、旅の用意をし、主に

金銭や旅の用具など借りて別れを告げて出た。何代にも

わたってここに

骨を埋めて

子どもや孫が繁栄していく将

来を見 いなどと思っていた住まいをあとにし 発し

た。住み慣れた家の辺りを捨てがたい気持ちでついつい

振り返って見がちであるのもかいのないことだ。昔召し

使ってい 人が武蔵の国の某 里に住んで るので、そ

れを頼 て行くのであった。鎌倉河岸を過ぎ、護持院の

第8講『とは