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持院のあと わがすめるかた

しばしたた

ずみてやすらふ

。かしこにこそわが

思ふに、胸つとふたが

(中略)四谷より新宿とい

りゆきてなにがしの村につきぬ

あるじ

かひがひしく

ねもご

ろにものして「おのれが命のあらん

はごく

やしなひまゐらすることいとやすきこ

ずしもうれへ給ふな」など言ふに、少しは心

ゐぬ。奥まりたる方に離れたる家あり。

ゆ い ま

いほり

二つあはせたらんほどして、 西おもてに建てたり。

冬はさも れ、夏のころはさこそ暑からめと思ひ

はからる。東は寺にて松杉あまた生ひて竹の林こ

ちたく繁り、北の方はいちぐらやうのものありて

うしろは

はたけ

なり。 「ここにすませ給ひて憂きをも

忘れ給へかし」など言ふ。げに林に落ちたるまし

らは木を選ぶのいとまなしとかや

ひざ

をだに入れ

なばこと足りぬべしとて、畳・

むしろ

やうのもの求め

あとを通り

でいた方角がよ

たたずむ。あの辺り

に胸がつまって悲しくて

ら新宿というところを越えて

に着いた。主は頼もしく親切に迎

る限りは、お世話申し上げることはた

とでございます。必ずしもお嘆きなさいま

言うので、少しは気持ちが落ち着いた。奥まっ

に離れがある。維摩居士が住んでいたという庵を二

わせたぐらいで、西向きに建っている。冬はともかく、

夏のころはさぞかし暑かろうと思いやられる。東は寺で

松や杉 木が くさん生えて竹林もおびただしく生い茂

り、 北の方には蔵のようなものがあり後ろは畑である。 「こ

こにお住みになって嫌なことをもお忘れになってくださ

い」などと言う。本当に林 落ちた猿は木を選ぶのに暇

がな とかいう様子だ。膝さえ入れば十分だろうという

ので、畳や筵のよ なものを求め敷いて、粗末な庵の主