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たれたれと 置かんと、手馴

もて遊びまで、数々

くそれそれにと配りつ

ゐの近くあるを見やりて、

ごろはとかく苛み、遊びがたき

くもむつかしくも、さぞ思ひつらめ

我なくは、 『いづちおはしけ 、あはれ

偲ぶ時もあらんかし」と言ふを、聞く人みな

肝魂も消え失せぬ。いかなる岩木もえたふま

じく、上中下声をあげて等し 、さと泣きけ

り。翁と母、手を捕らへて、呼び生け呼び生

け、 「なほ言はまほしか んことあらば、の

たまへ。心のうち晴るけやらぬ 罪深し」な

ど言へば、うちうなづき、 「 をば煙とな

給ふな。それなん心にかかる。先立ちて二人

の親に嘆かせたてまつらん心憂さ、黄泉路も

やすくは行きやられじ。また病ひ少し緩みあ

私は

誰々と人を

娘の

形見でも

残そうと、使い

物まであれこれと取

配った。長いこと邸に仕

娘が

見やって、冗談を言いながら

遊び相手にしていたのを、 嫌なこ

さぞかし思っていただろう、でも私が

へいらっしゃったのだろう、ああ寂しいこ

あるだろうね」と

娘が

言うのを、聞いている人はみな悲しみで

心も消え失せてしまった。岩や木

のようなどんな非情な人

も、

こらえられそうになく、身分の高い人も低い人もみな同

に、わっと泣いた。私と母(=

私の妻

)は、

娘の

手を取って、

繰り返し呼びかけて正気を取り戻させて、 「もっと言いたいこ

とがあるのなら、おっしゃいなさい。心の中がすっかり晴々と

しないのは執着を残すことだから罪深いことです」などと言う

と、

娘は

軽くうなずき、 「私を

火葬にして

煙としてくださるな。

それが気がかりです。先立って両親を嘆き悲しませ申し上げる

のがつらくて、死出の旅路もたやすく行けそうにありません。