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昨日といひ今日と
年も返りぬ。睦月は事
色異なる装ひども響きのの
いとどなやましく、うたてあれ
にて、 「いかにせん、いかにせん」
目もせず、つと添ひつつ嘆くよりほかの
なし。軒端の梅の、かつ咲きそめたるを、女
の童折りて、
「君ならでは」 と見せたりしかば、
顔近く引き寄せ 「うれしげに 咲きたる花
かな。色よりも香こそあは なれ。 我はかく、
今日明日とおぼゆるを、げにこの世のほかの
思ひ出これならんかし。桜はまだしくて見ざ
らんぞ口惜しき」など、思ひ入れたる顔 に
ほひ、あらぬ人なれど、さすがになつかしか
らずはあらず。
如月の中の五日にや、 いまはの際と見えし。
第3講
『う
娘の命が
昨日までか今日で終
るうちに、いつのまにか
う特別なことをするというこ
着替えて世間は騒ぎ立てているけ
娘
)はいっ
そう病気がちで、つらく悲しいので、
私は
世間の喧騒を耳に入
れないで、
「どうしよう、 どうしよう」と
と
娘に
付き添って嘆くばかりである。軒端の梅が、一
きはじめたのを、召使の少女が折って、 「あなたで
見せようか、この梅の花を」と
娘に
見せたので、
娘は
顔の近く
に引き寄せ、 「うれし うに咲いた花だこ 。色よりも香り
しみじみと趣深い。私はこのように、今日明日の命だと思われ
るが、本当にあの世へ持っていく思い出 この花であるのだろ
うね。桜はまだ早くて見られない は残念だ」などと、花に思
いをめぐらせている
娘の
顔の様子は、病気のためまるで別人だ
けれども、
私は
やはりいとしく思わずにはいられない。
旧暦二月の十五日であろうか、
娘の
臨終も近いと思われた。




