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その時、大臣上達

は、 「他国のかりそめ

おはする程、我が家の内に

つりて見ばや。さて子をもうみ

かばかりいみじき人の名残 留めた

えも言はざる事なり」と、おもひねがは

なくて、さる用意をしつつ、気色とり聞こゆ

れど、 「わが世にてだに、さやう 事おもひ

よらざりしを、まいて知らぬ世界に さるふ

るまひをし出でたらんに、いと便なからんか

し。さだにゆきかかりなば、 返らんとせんに、

事悪 くなりなんかし」と思ふに、御子もし

のびて、 「さおもむけおもへる人いと多からんめり。

かならずおぼしなよりそ。かうこそただう

るはしき世界と見ゆれど、人の心いとおそ

当時、大臣上達部

の一時滞在する人である

る間は、自分の家の中に出入

だ。そういうふうにして、

娘が

子をもうけたならば、これぐらい

のすばらしい人が去ってなおそのあと

て、

その子を

留めているとしたら、言いようもなく喜ば

だ」と思い願わぬ人はなくて、そのような心遣

中納

言の

機嫌をとり申し上げるけれども、

中納言は

「日本においてで

さえ、そうした

色めかしいことを

思うことはなかったのに、まし

て他国でそうしたふるまいをしでかそうものならば、たいそ

都合であろうよ。そんなふうにさえも行きがかりができてしまう

なら、日本へ帰ろうとした場合に、たいそう具合が悪く ってし

まうだろうよ」と思っていると、御子もこっそりと忍んで来て、

 「

娘のところにあなたが

通ってこられるようにするもくろみに

あなたをひっかけようと思っている人がたいそう大勢いるようで

す。どうかきっとお心ひかれなさらないでください。この国はこ

第8講『浜松