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たまひつる も忌むまじきさ
なかるべし」なども
そのほどのありさまは
ざしあるやうに見えけり。
のすることなど、いたつく人多
はてつ。 いまはいとあはれなる山寺
つれづれとあり。夜、目 合はぬままに
き明かしつつ、山づらを見れば、霧はげに麓
をこめたり。京もげにたがもとへかは出でむ
とすらむ、いで、なほここながら死なむと思
へど、生くる人ぞいとつらきや。かくて十余
日になりぬ。僧ども念仏のひまに物語するを
聞けば、 「このなくなりぬる人の、 らはに
見ゆるところなむある。さて、近く寄れば、
消え失せぬなり。遠うては見ゆな 」 「いづ
れの国とかや」 「みみらくの島となむいふ
る」など、口々語るを聞くに いと知らまほ
き止めるの
夫は
立ったまま
の
夫の
態度は、たいそ
うして、あれやこれ
母の葬儀のことなど
、骨を折って世話
をする人が大勢いて、全
した情趣深い山寺でみな一緒
いる。夜、眠れぬままに嘆き明か
と、霧は本当にふもとに立ち込めてい
本当に誰の所へ身を寄せようというのだろ
このままこの山寺に居たまま死にたいと思うの
くれない
わが息子道綱が
いるのはたいそう辛いことだ。こうし
て十日余りになった。僧たちが念仏の暇 話をしている
くと、 「この亡くなった人の姿が、はっきりと見えるところ
ある。そこで近寄ってみる 、その人は消えうせてしまうそう
だ。遠くからなら見えるそうだ」 「それはどこの国であるかな」
「みみらくの島というところだそうだ」などと口々に話してい
るのを聞くと、とても知りたく思い、悲しい気持ちになって、
思わず次のように歌が口ずさまれる。
ありとだに
・・・
=せめて
亡き母の姿
だけでも、遠くから見