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さいふいふも、女

りけるを、久しうわづ

ころほひ空しくなりぬ。さ

わびしきことの、 世の常の人に

あまたある中に、これはおくれじお

惑はるるもしるく、いかなるにかあらむ

手などただすくみにすくみて、絶えいるやう

にす。さいふいふ、ものを語らひおきなどす

べき人は京にありければ、山寺にてかかる目

はみれば、幼き子を引き寄せて、わづかにい

ふやうは、 「われ、はかなくて死ぬるなめり。

かしこにきこえむやうは、 『おのがうへをば、

いかにもいかにも知りたまひそ。この御後の

ことを、人々のものせられむ上にも、とぶら

ひものしたまへ』ときこえよ」とて、 「いか

にせむ」とばかりいひて、ものもい れずな

それにしても、母

私も

生きてい

たが、

その母も

長く患った末に、秋の初

まった。まったくどうしよう

普通の人とは比べものにならない

肉親の

中で、

母には

取り残されまい、一緒にあの世へと心

れていた通り、どうしたわけだろうか、手

で、息も絶えそうになった。そうなり がらも

ことを相談すべき

夫の兼家は

京にいたし、

私は

山寺でこのよう

な目にあったので、まだ幼いわが子(=道綱)をそばに

せて、やっとのことで言ったことは、 「私は、このままむな

く死ぬでしょう。

お父様に

伝えていただきたいことは、 『私の

ことはどうなっても構わないでください。 ただ

私の母の葬儀を

世間の人がなさる以上 盛大に行ってく さい』と申し上げて

ください」 言った後 「どうしよう」と言ったきり 口もき

くことができなくな てしまった。長く患った後に亡くなって

しまった

母の

ことは、今はどうしようもないことだとあきらめ

第7講『蜻蛉