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乞食、路の 満てり。前の年
暮れぬ。あくる年は
ほどに、あまりさへ、
ざまに、あとかたなし。
世人みな飢ゑ死にければ、日
まりゆくさま、 少水の魚のたとへに
はてには笠うち着、足ひき包み、よろし
したる者、ひたすらに家ごとに乞ひ歩く。か
くわびしれたる者どもの、歩くかと見れば、
すなはち倒れ伏しぬ。築地のつら、道のほと
りに、飢ゑ死ぬる者のたぐひ、数も知らず。
取り捨つるわざも知らねば、くさき香世界に
みち満ちて、変はりゆくかたちありさま、目
もあてられぬ事多かり。いはむや 河原など
には、馬車の行く交ふ道だにな 。
あやしき賤・山がつも、力尽きて、薪さへ
乏しくなりゆけば、頼むかたなき人は、自ら
に満ちる。
年は、なんとか
に、その上さらに、
世間の人がみ 飢え死
さまは、少水の魚のたとえと
死にかかっている魚さながらであ
足をくるみ、かなり立派な格好をした
糧を乞うて歩くのである。このように落ち
が、歩いているかと思うと、すぐさま倒れて
地沿いに、路傍に、餓死者のたぐいは、無数である
死骸の
取
り片付けようも思いつかないから、くさい臭いが辺りに
て、腐敗していく様子は、目もあてられないことが多い。ま
て、河原などには、馬や車の通行する道さえな 。
卑賤な者・ 木こりたちも、 力が尽きて、薪までも不足して持っ
てこなくなってきたので、頼る当てのない人は、自分の家を壊
して、薪を市に出 売る。一人が持って出た薪の値段は、一日
の命を支える分にさえならないという。不思議なことには、薪
の中に赤い丹がつき、箔 どが所々 見える木が混じっていた




