Table of Contents Table of Contents
Next Page  74 / 143 Previous Page
Information
Show Menu
Next Page 74 / 143 Previous Page
Page Background

74

乞食、路の 満てり。前の年

暮れぬ。あくる年は

ほどに、あまりさへ、

ざまに、あとかたなし。

世人みな飢ゑ死にければ、日

まりゆくさま、 少水の魚のたとへに

はてには笠うち着、足ひき包み、よろし

したる者、ひたすらに家ごとに乞ひ歩く。か

くわびしれたる者どもの、歩くかと見れば、

すなはち倒れ伏しぬ。築地のつら、道のほと

りに、飢ゑ死ぬる者のたぐひ、数も知らず。

取り捨つるわざも知らねば、くさき香世界に

みち満ちて、変はりゆくかたちありさま、目

もあてられぬ事多かり。いはむや 河原など

には、馬車の行く交ふ道だにな 。

あやしき賤・山がつも、力尽きて、薪さへ

乏しくなりゆけば、頼むかたなき人は、自ら

に満ちる。

年は、なんとか

に、その上さらに、

世間の人がみ 飢え死

さまは、少水の魚のたとえと

死にかかっている魚さながらであ

足をくるみ、かなり立派な格好をした

糧を乞うて歩くのである。このように落ち

が、歩いているかと思うと、すぐさま倒れて

地沿いに、路傍に、餓死者のたぐいは、無数である

死骸の

り片付けようも思いつかないから、くさい臭いが辺りに

て、腐敗していく様子は、目もあてられないことが多い。ま

て、河原などには、馬や車の通行する道さえな 。

卑賤な者・ 木こりたちも、 力が尽きて、薪までも不足して持っ

てこなくなってきたので、頼る当てのない人は、自分の家を壊

して、薪を市に出 売る。一人が持って出た薪の値段は、一日

の命を支える分にさえならないという。不思議なことには、薪

の中に赤い丹がつき、箔 どが所々 見える木が混じっていた