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宮に初めて参りた

うつつましきこと数知

れば、夜々参りて、三尺の

さぶらふ。久しうなりぬれば、

しうなりぬらむ。さは、はや」とて

りはとく」と仰せらる。ゐざりおるるや

と、格子上げ散らしたるに、雪降 けり。

昼つかた、 「参れ。雪にくもりて、あらは

にもあるまじ」など、たびたび召せば、この

局の主も、 「さのみやは龍りゐ給へらむとす

る。いとあへなきまで御前許 れたるは、

おぼしめすやうこそはあらめ。思ふにたがふ

は、にくきものぞ」など、ただいそがし出だ

せば、われにもあらぬ心地すれど参るも、い

とぞ苦しき。御前近くは、例の炭櫃に火こち

たくおこして、それには人もゐず。

中宮定子の御殿に

初めて出仕したころ

遠慮することが数え切れ

そうなので、毎晩参上して三

長い時間が経ってしまったので、

中宮様が

「局に下がりたく

なってしまった だろう。それなら早

おっ

しゃって、続けて

「夕方になったら早く参上しなさい」とお

しゃる。

私が

膝ずりして局へ下がるやいなや、格子をさっと

げたところ、雪が降ってい の 。

その日のお昼ごろ、 「参上せよ。雪で曇っているから

昼間

でも

丸見えではあるまい」などと、 たびたびお召しになるので、

この局の

主人の女房も、

「そうばかり引きこもっていらっしゃ

るおつもりですか。あっけないくらいひどく、

中宮様の

御前に

お仕えすることが許されているのは、そうお思 になるわけが

あるのでしょう。

人の

好意に背くのはかわいげないことですよ」

などと、ひどくせきたてて出仕させるので、無我夢中で訳がわ

から い気持ちがするけれど 、 方なく参上するのが、とて

第6講『枕草