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灯も、道を もろともに消え

く心細きながら、何

まで永らふらむ。惜し

く思捨つれども、子を思ふ

びがたく、道をかへりみる恨は

なく、さても猶東の亀の鏡に映さば

らぬ影もや顕はるゝと、せめて思ひ余り

て、よろづの憚りを忘れ、身をようなき

ものになし果てて、ゆくりもなく、いざ

よふ月に誘はれ出なむとぞ思ひなりぬ

る。

さりとて、 文屋康秀が誘ふにもあらず、

住むべき国求むるにもあ ず。ころは三

冬立つ初めの空なれば、降りみ降らずみ

時雨も絶えず、嵐に競ふ木葉さへ涙とと

もに乱れ散りつゝ 事 ふれて心細く悲

しけれど、人や ならぬ道なれば、行き

るか、

その時がく

競争するよ

あわれな

年月を過ご

頼りなく不安な

無事

生きながらえてこら

自分

一人の身は

どうなってもよい

と簡単に思い捨てること

が、子どもを

かわいく

思う

親の

心の迷いはやはり耐えられな

ちであって、

歌道

を振り返ることで

胸に生じる

無念さは慰めようと

してもその方法がなくて、それにして

鎌倉幕府の正しい裁

判を受けた

ならば、

事件の真相も

明らかになるであろうかと、切実

に思い悩んで、さまざまの遠慮や気兼ねも忘れ

下りの主人公のように)この身を無用の者だとあき

然に十六夜の月に誘われて

鎌倉へ

旅立ってしまおうという気になっ

た。

そうかといって、

小野小町のように

文屋康秀のような男性が誘っ

てくれるという訳でもなく、また(

『伊勢物語』の東下りの主人公

のように

)住むべき国を求めるのが目的の旅立ちでもない。季節は

冬になる初めのころの空なので 降ったり止んだりして 時雨も絶

えること く、嵐に

吹かれて

先を争うように激しく散る木の葉まで

も、涙と一緒にしきりに乱れ散って、何か事あるごとに頼りなく不